そして線を大切に。

九谷焼絵付師です。主に下絵付けを中心に制作しています。上品で味わい深い下絵の世界を目指して…

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馬上盃

もともと馬上盃の名前の由来にはロマンを感じるし、素敵だなぁと思っていましたが、あるお客様との出会いからより気になる存在になりました。
そのお客様は馬上盃を集めていらっしゃっていて、形状が似ているということからエッグカップも馬上盃としてお迎えしているぐらい、愛が深いコレクターさんです。
わたしにとっては盃の形状の一つとしての認識でしたので、衝撃的でした。

用途よりも形の面白さや精神性を大切にされているように感じたからです。


何かに夢中になるって本当に素敵なことだなと、お話をしていて思いました。

夢中になったり、
好きなものを素直に好きと言えること。

そこに偶々立ち会えた自分も嬉しいし喜びだし、
幸せだなと。

 

これまで蓄積したわたしの感覚や認識で、美しいと思う答えは自分に内蔵されるようになっていますが、やっぱりバランスを見つけるのはなかなか難しいです。

講評会に参加すると、作品を眺めてすぐに本質を見抜いてお話される先生がいらっしゃいます。わたしもそう思ってた!と思える、ズバッと的確な核心をついてきたり、何かふわっとしたものでもヒントを掴める納得感とかがたまらなく気持ち良いです。業界に長く携わっている分、知識も経験も豊富だからなのだと思いますが、自信があるからこそ人に伝えることが出来るのだと思っています。

 

馬上盃とは、遊牧民が馬にまたがったまま使う盃のことで、移動する時に便利なように盃を腰に紐でくくったと言われています。

ですので、持ち易いくびれた形と高台に紐を通す穴が開いているのが特徴でした。

今ではほとんど穴は無くなっていますが、馬上盃のくびれは今でもそのまま残っています。

 

このくびれのバランスが作品の雰囲気をガラッと変える部分の一つです。

素材の違いでも印象は変わりますが、目に入ってくる一番目立つ情報は形です。

形が魅力的ならば、めちゃくちゃ魅力的になれるのです。

 

馴染みがあるような定番で美しい形と、見たことはないけどオリジナリティ溢れる魅力的な形。

その時その時で色々ありますが、人の心を打つ作品が生み出せるよう作り手は頑張っています。

わたしは成形の経験はあまりないですが、これまで轆轤師達の上質な素地を間近で見て触ってきている故の、何が良くて何がダメなのかの判断は自分なりに持っています。

しかし、判断は出来てもいざ形にするとなると簡単にはいきません。

手びねりの馬上盃は特に成形が難しくいつも苦戦します。粘土がやわらかいと、形によっては上の部分がへにゃるし、何といっても削り出していく時のバランスを決断することには労力を使うからです。

出会ったお客様に喜んでもらいたい一心で頑張っているため、実際に共鳴出来た時はこれまでの苦労全てが報われる瞬間です。

 

他のアイテムと比べると数は少なめですが、今後も継続して制作していきたいと思っています。

もし、どこかで(私の作品ではなくとも)馬上盃を見かけたらぜひ手に取って確かめてみてください。

知らないから気づかなかっただけで、気にかけてみるとどんどん情報が目に入ってきて、意外とたくさんあることに気付かされると思います。

 

興味あることを知ることは喜びです。

 

 

おしまい。