そして線を大切に。

九谷焼絵付師です。主に下絵付けを中心に制作しています。上品で味わい深い下絵の世界を目指して…

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わたしが知ってる漆のこと

通常漆は、木に塗って仕上げる漆器が大半ですが、塗る素材は実は何でも良くて、

麻布、和紙、竹、葉っぱ、ガラス、金属、陶器、磁器など、塗れるように加工すれば基本塗れない素材は無いと言われています。

漆はツルツルした面には食い付きが悪く、剥がれてしまいます。ですので、時には下地剤を塗ってちゃんと土台(胎)を作ってから漆を塗っていきます。

わたしが作っている陶胎漆器(とうたいしっき)も、釉薬有りでは剥がれてしまうので、釉薬を掛けずに焼成した部分のみ漆を塗ってもらっています。(磁器が胎だからもしかして磁胎漆器…?)

漆の作家さんに塗りをお願いし、その上に漆で絵を追加したい場合は自分で描かせてもらいます。

漆は粘り気が強く、いつも使う呉須や他の絵具と同じように筆を動かせません。「絵具と思わない方がいい」「乗せてひっぱるといい」と教えてもらっても、やっぱり感覚が違いすぎて戸惑います。

粘りを理解して、誘導する感覚が正解なのかもしれません。とにかくゆっくりとしか動かせません。全く進まず、心が折れそうになります。

時間をかけ何とか仕上げますが、僅かなミスも直せない漆の筆仕事は誤魔化しの効かないとても難しい仕事です。
苦戦するたびに毎回思いますが、本職としてお仕事される方々は本当にすごいです。

見よう見まねで簡単に手を出してはいけない世界だと現実を突きつけられてしまいます。けれど、技術が無いからと、表現したいことを簡単に諦めるのは悔しい性分なのです。

出来る限りの努力をしたい。

わたしは九谷で絵付しているだけの人間ではありますが、陶胎漆器というものを知ってからは、ちょっとづつ漆について学びながら興味を持って制作に取り組んでいます。

 

本物の漆作品はとても高価です。

漆特有の艶々な表面は、仕上げるまでに信じられないくらいの仕事量をこなしています。

塗っては研いで、塗っては研いで…

蝋色(ろいろ)と呼ばれる、鏡面のように特別な仕上げをする際には、最後は自らの手指の腹で磨きあげると言うので驚きです。

話を聞いて見学して、ようやく理解が深まる世界です。

納期を急ぐばかりに、いくら外側ばかり優れているように取り繕っても上手くはいかず、全てが台無しになるといいます。一つ一つの工程を丁寧に重ね無いと上等な物は生まれないと。(焼物もそうゆう所がありますが、漆は特別にそう感じます。)

輪島の職人さんは皆さん実直な方々です。

かっこいい。

 

 

一方で、物価の高騰は工芸業界でも避けられない事実です。漆は去年の二倍値だと聞きました。

私が使う筆もまた300円ほど値上がりしています。

 

日本の工芸品は、どれも手間ひまをかけて作られています。苦境に立たされても、続けられることに感謝し、毎日仕事します。

作り手の"作る喜び"と、"喜んでくれる人を思って作る幸せ"を奪われないようにと、まだまだ道半ばの若手は願うばかりです。

 

熱量を持って書き出したはずなのになかなか最後までまとめきることが出来ず、こま切れのような内容になってしまいました。

本業ではないわたしですので、素人丸出しのお話しか出来ませんでしたが少しでも漆のことをお伝え出来ればと思い文章に起こしました。

漆器と言って出回っている製品も、ウレタン塗料、輸入漆、国産漆、色々あります。消費者はその差になかなか気付けませんが、一括りで漆器と片付けるのはさみしいなと思います。

日本が誇る素晴らしい技術と文化を知ることも、現代を生きる私たちの大切な特権です。

見落としがちな身近にある当たり前も、興味を持ってみると全然当たり前じゃなるから面白いです。

きっと人は世の中のことを全部分かって死ぬ人は1人もいません。

それならば、自分の興味のあることだけはたくさん分かっていたいと思います。

 

皆さんが本当に興味のあることは何ですか。