そして線を大切に。

九谷焼絵付師です。主に下絵付けを中心に制作しています。上品で味わい深い下絵の世界を目指して…

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描きにくいのに描いてしまう

どこに絵付をするかは指示があるもの以外、全て絵付師の自由です。

自分の作品として、一から作るときには何も制限がないので、完成形を想像しながら絵付を決めていきます。

 

・すぼまった底面

・内側立ち上がり部分

・くびれた奥の部分

これらは絵付が難しいスポットです。

すぼまった底面が難しいのは、筆を普段持つ位置より上の方で持つため、いつもと感覚が違う状態で仕事しなければならないと言うことが第一にあります。また、筆先が当たる距離感をはかるのに神経を使うことと、ミスをした際のお直しが大変なことも理由としてあります。

内側立ち上がり部分とくびれた奥の部分が難しいのは同じ理由で、筆を立ててその状態を保ったままの絵付が不可能だからです。

筆が届かないとはこのことです。

習字の授業でも教わったと思いますが、基本的に筆は立てて使うのです。

そして、縁から向こう側に絵を繋げて描くことも難しいです。面の角度が急に変わるため、その度に小刻みに筆の当てる位置を調整しながら描かねばならないからです。とても神経を使いますし、時間もかかります。

ただ、いずれも細く綺麗な線はひけないのが分かっていても、そこにも絵付が欲しいから描く選択をしてしまいます。

聞くところには筆をL字になるよう加工して描く超人もいるようですが、わたしの場合感覚をつかむまでに相当な時間がかかりそうなのと、そこを極める理由が無いので筆を半分に折って描いてみる幼稚な対処のみ行っています。

描きにくい場所に描く選択をしたときは、完成の未来を楽しみにもう頑張るのみなのです。

 

冒頭で指示があるもの以外はと言いましたが、

指示というのは、お客様のご要望だったり仕事でお願いされたアイテムに描く場合です。

完成品に満足し喜んで欲しいので、一生懸命要望に応えようとしますが、実はお互いの想い違いが少なからずどうしてもあるため、とてもリスキーな仕事だったりします。

特に、お客様の新作希望の場合が一番リスキーです。

アイテムのみ指定で、「あとはお任せします。」の場合でも、お客様の本心を探るように直接お話させていただいています。

希望納期と予算があるかないかの確認。

どうゆう雰囲気のものが良いのか。

いつどのような場面で使うものなのか。

また、お気に入りの手持ちのものがあるなら写真を見せてもらったりして情報を収集します。

ここまでして、本当にわたしのことを信頼してお任せしていただけると分かれば安心して引き受けることができます。

反対に、わたしの作品を欲しいと思っていただけることは本当に嬉しいし有難いことなのですが、どうしても受注することが難しい場合があります。

それは、完成品に対する思いやこだわりが強い場合です。

形状、図案、雰囲気の指示をこと細かに受けることがあります。

制作する道しるべが出来て安心する方も中にはいらっしゃるのかもしれませんが、少々危険だとわたしは感じています。

なぜなら、そのこだわりポイントを少しでも外せばご納得いただくことは難しいからです。

そして気付くことは、言われるがままに制作した作品は、もはやわたしの作品では無く、わたしを介したお客様の作品なのではないかと言うことです。

このような気質がある方の受注はとても不安で怖いため、お断りさせていただくことにしています。

 

 

今もちょうど受注した新しい作品に取り掛かっているところです。

新作と追作を同時に作っています。

わたしの仕事の取れ率を考えて、ともに引き受けている数より多めに絵付しています。

新作のほうは、お客様に直接お会いしお話していますので、この方のことを思いながら楽しく制作しています。

追作のほうは盃です。今は本焼してもらっていて、手元に戻ってきたら色絵と金彩を入れる予定です。

 

いつも思いますが、作っている時はノリノリなはずなのに手渡す時が来ると途端に不安に襲われ、すごく緊張します。

気に入っていただけますように…!と願うばかりです。

 

まあ、でもとにかく、

自分自身が納得出来るものをお届け出来るよう丁寧に仕事するだけですね!

 

さて。

引き続き絵付がんばります!